Friday, April 8, 2011

茨木のり子(Noriko Ibaragi)


-わたしが一番きれいだったとき

わたしが一番きれいだったとき
街々はがらがらと崩れていって
とんでもないところから
青空なんかが見えたりした

わたしが一番きれいだったとき
まわりの人達が沢山死んだ
工場で 海で 名もない島で
わたしはおしゃれのきっかけを落としてしまった

わたしが一番きれいだったとき
誰もやさしい贈り物を捧げてはくれなかった
男たちは挙手の礼しか知らなくて
きれいな眼差だけを残し皆(みな)発っていった

わたしが一番きれいだったとき
わたしの頭はからっぽで
わたしの心はかたくなで
手足ばかりが栗色に光った

わたしが一番きれいだったとき
わたしの国は戦争で負けた
そんな馬鹿なことってあるものか
ブラウスの腕をまくり卑屈な町をのし歩いた

わたしが一番きれいだったとき
ラジオからはジャズが溢れた
禁煙を破ったときのようにくらくらしながら
わたしは異国の甘い音楽をむさぼった

わたしが一番きれいだったとき
わたしはとてもふしあわせ
わたしはとてもとんちんかん
わたしはめっぽうさびしかった

だから決めた できれば長生きすることに
年とってから凄く美しい絵を描いた
フランスのルオー爺さんのように ね

WHEN I WAS MOST BEAUTIFUL

When I was most beautiful,
Cities were falling
And from unexpected places
Blue sky was seen.
When I was most beautiful,
People around me were killed.
And for paint and powder
I lost the chance.

When I was most beautiful,
Nobody gave me kind gifts,
Men knew only how to salute
And went away.
When I was most beautiful,
My country lost the war.
I paraded the main street
With my blouse sleeves rolled high!

When I was most beautiful,
Jazz overflowed the radio,
I broke the prohibition against smoking
Sweet music of another land!
When I was most beautiful,
I was most unhappy,
I was quite absurd,
I was quite lonely.


詩ってすごいパワーあるよね。茨木のり子さんの「自分の感受性ぐらい」を初めて読んだ時すごく心に響いたな。

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